IEC61400-1:2019では、年最大風速の変動係数が大きい場合のDLC6.1及びDLC6.2における荷重の部分安全率の算定方法が規定されました。
ここでは、数式や意味の補足をしようと思います。
尺度パラメータ(scale parameter)

ここで、


再現期間は、50、100、500年などが想定されています。すなわち、まず、既知の再現期待値から、変動係数を算出する方法を示し、その次に、変動係数が15%を超えた場合の部分安全率の補正の方法を示しています。
したがって、上記の例では、50年再現期待値と100年再現期待値から、変動係数を算出する例が示されていますが、100年再現期待値と500年再現期待値から算出してもよく、例えば、建築物荷重指針の100年再現期待値と500年再現期待値からαを見積もることもできます。
モードまたは位置パラメータ(mode / location parameter)

上記のα及びβは、ガンベル分布(Gumbel distribution)を表すためのパラメータです。αは尺度パラメータ、βはモード(最頻値)または位置パラメータを表します。以下は、ガンベル分布を累積分布関数として表した式です。

平均値(mean)

期待値になります。0.5772はオイラー定数を意味します。
標準偏差(standard deviation)

変動係数(coefficient of value, COV)

上記の変動係数は、年最大風速に対する変動係数を意味しています(年最大風速の平均値に対する標準偏差の比)。
変動係数という用語自体は、平均値に対する標準偏差の比という意味のため、文脈により、50年再現期待値や100年再現期待値の変動係数という意味で使用される場合もあります。
年最大風速の変動係数の例
例として、建築物荷重指針の値を用いて、算定した変動係数を以下の表に示します。マップで示される範囲の中では、100年再現期待値と500年再現期待値の差は、2m/s~4m/sとなっています。マップに示されていない伊豆諸島、小笠原諸島、沖縄諸島などは、6m/s~8m/sとなっており、変動係数COVも15%以上となります。
| 地点1 | 地点2 | 地点3 | 伊豆諸島 | 小笠原諸島、沖縄諸島他 | |
| U100 | 44 | 42 | 38 | 46 | 50 |
| U500 | 48 | 46 | 42 | 52 | 58 |
| α | 2.48 | 2.48 | 2.48 | 3.72 | 4.96 |
| β | 32.60 | 30.60 | 26.60 | 28.89 | 27.19 |
| μ | 34.03 | 32.03 | 28.03 | 31.04 | 30.05 |
| σ | 3.18 | 3.18 | 3.18 | 4.77 | 6.36 |
| COV | 0.09 | 0.10 | 0.11 | 0.15 | 0.21 |
【参考文献】
日本建築学会、建築物荷重指針・同解説(2015)
その他の事例としては、神田(1982)による変動風速マップがあります。このマップは、中原(1981)が日本全国163か所の気象官署の観測データから年最大風速を整理した結果(1929~1977年)を参照し、標本数が30以上の観測地点の50年再現期待値のCOVを求めて、等高線図(コンターマップ)にしたものです。この結果では、近畿の一部と九州南部が15%~16%という結果が示されています。

【参考文献】
神田順, 動的応答を考慮した風荷重の確率統計的評価, 風工学シンポジウム, 1982.
中原満雄, 年最大風速の再現期待値, 建築研究資料 No.26, 1981.