風力発電の事業性を評価するとき、必ず登場するのが「年間発電電力量」です。
「このサイトは年間○GWh発電する」
この数字を見ると、そのまま将来の毎年の売上になるように感じてしまうかもしれませんが、実際にはそのようにはなりません。
年平均風速は、年によって変動します。観測した風をサイト全体に展開する際は、風況シミュレーションによる推定を行います。さらに、観測高度と風車のハブ高さが違えば、鉛直方向の外挿が必要になります。隣接する風車からは、ウェイクが発生し、風車の性能や利用可能率、送電損失、出力抑制などによって、実際に売電できる電力量は、様々な影響を受けます。
つまり、風力発電の「年間発電電力量」(以下、簡略的に年間発電量またはAEPと呼びます)は、実測値ではなく、多くの仮定とモデルを積み重ねて得られた推定値になります。
したがって、事業性評価では発電量そのものだけでなく、その数字にどの程度の不確かさ(Uncertainty)があるのかを見る必要があります。
今回は、風力発電の事業性評価における「不確かさ」について考えてみます。
風況調査から事業性評価までの流れ
風力発電の開発では、発電所を建設する前に風況調査、発電量評価(Energy Yield Assessment)を行います。
大まかな流れは、以下の通りです。
- 風を測る
- 長期的な風況を推定する
- サイト全体の風況を予測する
- 各風車の発電量を計算する
- ウェイクや各種損失を考慮する
- 正味の発電量(Net AEP)を計算する
最終的に知りたい数値は、風車が理論上どれだけ発電するかではなく、売電地点まで届けられる電力量です。
さらに、その発電量には各種の不確かさが伴うため、P50、P75、P90、P95、P99等、確率的な発電量として評価を行います。このPは、Provabilityの頭文字であり、超過確率(Exceedance Probability)を意味しています。
P50とは何か
まずは、P50から考えましょう。P50とは、簡単にいえば、
「その発電量を上回る確率が50%となる発電量」
です。同じようにP90は、
「その発電量を上回る確率が90%となる発電量」
という意味になります。したがって、通常は、
P50 > P75 > P90 > P95 > P99
という関係になります。
ここで大切なのは、P90という数字自体が重要なのではないということです。P50とP90の比、または、P50とP90の差、すなわち「どのくらい幅があるのか」が重要となります。これを決めているのが「不確かさ」です。
ロスと不確かさの違い
風力発電の評価で、もう一つ注意したいのがロス(損失)と不確かさの違いです。例えば、風車同士のウェイクによって発電量が5%減少するとします。この5%はロスです。一方、「ウェイクロスは本当に5%なのか?それとも、4%なのか、7%なのか?」という幅が不確かさです。つまり、
ロス: 実際に失われると考える発電量
不確かさ: その推定値がどの程度不確かか
という違いです。
これは事業性評価では非常に重要です。例えば、ウェイクロスを「5%」と入力したとしても、それだけではウェイクのリスクを評価したことにはなりません。その5%という数字が、
- どのウェイクモデルによるものなのか
- どのような風況データを使ったのか
- どのようなパラメータを設定したのか
- サイト固有の地形や流入条件をどこまで再現しているのか
によって、数字の意味が変わってきます。不確かさ評価においては、ロスの推定に対する確からしさを更に考慮する必要があります。
不確かさとバイアスの違い
ここまで読んで、「では不確かさを大きく見積もれば安全なのでは?」と思うかもしれません。しかし、もう一つ注意すべきものがあります。それは、バイアス(偏差)です。
例えば、あるモデルが実際の発電量に対して、
+2%、+3%、+2%、+3%
と一貫して高く予測していたとします。この場合は「ランダムにばらついている」のではありません。
モデルが系統的に高く予測している可能性がある。
ということになります。不確かさをいくら大きく設定しても、P50そのものにバイアスがあれば、基準となる数字がずれてしまいます。つまり、「不確かさが小さい」ことと「予測が正しい」ことは同じではありません。風況評価では、不確かさだけを見るのではなく、過去のプロジェクトや実績データとの比較を通じて、予測バイアスがないかを確認することも重要になります。
後編では、具体的にどのような不確かさがあるかを説明していきたいと思います。
参考文献
- Andrew Clifton, Aaron Smith, and Michael Fields: Wind Plant Preconstruction Energy Estimates: Current Practice and Opportunities, NREL/TP-5000-64735, 2016.